なにそれ経営者のブログ

仕事と彼女と人生観

契約論(続き)

トマス・ホッブスによると「平等は無秩序の根拠であり、不平等なら秩序が自然に生まれる。平等が前提だから、戦争状態になる。だけどみんな戦争はしたくないので、みんなでやめようと同意するために法の支配を打ち立てる」と説いているそうだ。このロジックで「全員で一つの国家を形成し、一つの権威に従うという社会契約の必然性」を導いている。

---
・人間はそもそも平等である(一人一人はどれもたいして変わらない)
・人間は誰もが同じように同じものを希望する(希望の平等)
・希望の平等は不安を起こさせる
・自分には競争相手がいるという感情が生まれる
・人は相互不信の状態、疑心暗鬼に陥る
・その不安に耐えられないので徒党を組み、自分の力を強め、攻撃する
・こうして人間の間には闘争状態、無秩序が生まれる(戦争状態)
・この状態が続く限り、人間はこの息苦しさ、生命の危険を感じ続けねばならない
・誰もが自分の生命を守るために好き勝手しているが故に、全員の身が危うくなっているという矛盾
・この矛盾を解消するために、自分の身を守るために全員が好き勝手しているのを、全員で止めればよい
---

ぼくは「お互いの信頼がないから契約がいるんじゃ、そもそも信頼関係ができてから取り引きするから契約なんていらん!」派なので、契約不要論をかねてから唱えていたが、ホッブスのこの説を知り、この角度から攻めているのかと。かなりもってかれた。人を信頼したい、契約は無駄な行為である、というポジションからすれば、戦争状態になるという性悪説にやや違和感は感じるが、少なくともこのロジックに隙はない。これはこれで正しい。

ポイントは「あいつにできるなら俺にだってできる」とみんな平等で大差ないという前提から法の支配が必要になると帰結しているところだろう。能力の差ほとんどなんてないから、みんなが幸せになる権利を持っていることには疑いようもなく。

格差をみとめれば戦争はなくなるのかと言われると、資本主義社会が富の力を持ってしまった以上、不平等感からくる反発は止めることができない。現実は、1パーセントの富裕層の話じゃないけど、めちゃくちゃな格差が起きていて、その反動でテロや戦争がなくなることはない。資本主義の体制内部でさえ、現にトランプを支持している白人中間層は現状不満がかなり多い。

だったらみんなが幸せを望んでいるのだからと、法の力で抑制しようとしても、ひとつの法で全員が同意するのは現実的ではない。「お互い対立するとみんなたいへんじゃん、やめようぜ」と休戦協定を提案してもそれぞれ立場があるから、抗ってくるヤンキーはなくならない。

不平等なら幸せではなく、平等なら戦争がおこる。無秩序を強引に権力で抑えるという荒治療は21世紀には通用しないけど、社会契約論は社会において契約がなぜ必要になるかという観点ではすんなり納得させられる。

参考)國分功一郎「暇と退屈の倫理学