なにそれ経営者のブログ

仕事と彼女と人生観

プロの喋り手さんの話し方

昨日、東大で吉笑ゼミというのがあり、吉笑さんに関しては「現在落語論」を読んで以来、超ファンになったんだけど、しかもゲストが森田真生さんだということで行くしかないということで聞きに行った。やっぱり素晴らしかった。
じつはファンと言いながら落語家さんの喋りを生ではじめて聞いたのだけど、ネタに入るまでに話すいわゆるマクラが素晴らしくて、お客さんをつかんでいて、ほんとうにその場の空気を次々と作り変えていって心を動かされた。明らかに狙って笑いを取りにいってはめている。ぼくも完全にやられたひとり。めちゃくちゃ高度に組み立てられている。おそらく、おおまかに話す流れは決めながらも、引き出しがたくさんあってウケたフレーズをちょいちょい挟んできたり、会場の雰囲気をみて言葉を選んだりしている。根拠はないけど明確にそう感じた。間だったり、タイミングだったり、そういう駆け引きはやっぱりプロの技だなぁと。
ホンダの二足歩行ロボットのアシモは2006年当時、記者の前でデモンストレーションするまで6時間くらい計算して、厳密にシミュレーションしていたけど、プレゼンしたときには実際の階段が2ミリズレていて登れずコケた状態で「ボク歩けるよ」と言ったという話があったが、アシモはまさに歩けるようにみえているだけで、歩いていない。一方で、吉笑さんはその場で高速にジャブをうったりストレートをうったりして、喋っていた。ひとりで喋っている、というのが客観的に観察できる事実ではあるけど、どう考えても直感的にはお客さんと喋っていた。お客さんは喋っていないのにお客さんと喋っている。笑いや反応に呼応して、ほんとに気持ち良い空間。ライブに行ってくださいというのはほんとそうだなと。あれなにこの空気?みたいなのはその場にいないと感じられない。後から落語家さんの音声を聞いてもそれはほんのわずかな音声というもののみの情報を切り取っているので、ぜんぜん違う。ほんとにぜんぜん違う。
おもしろいことはいくつもあったけど(笑う前から)「もうおもしろい」というのはひとつの発見だった。前フリがあって伏線はって落とす、みたいなのは常套手段だけど、ものすごく丁寧に伏線はってくれると、オチの前にだいたい予想できちゃうので、喋らずに空気だけで笑える。これはヤバい。前のめりの笑い。想像力をえぐられているから、笑わないわけがない。この「もうおもしろい」というような状況が何度かあった。これこそレベルの高いコミュニケーションで、一般的な社会では時間をかけて他者との関係をつくりだすが、短時間のうちにあっちからがんがん仕掛けてきて勝手に関係をつくられて強制的にもってかれる。
自分の立場や状況など設定を説明したうえで、かるくディスるというか、ソフトSというか、ちょっとイジるというか、普通こう思うよねという共感の部分で握っておいて、え?みたいな視点を示すテクニックも超勉強になった。シリアスと笑いは紙一重だなぁと。メタからみると極めた人というのは、何言ってるかよくわからないけどなんかすごいんだろうなという点でたいていおもしろくなる。こうやって世の中を眺められたらもっとハッピーなんだろうなぁ。おもしろいと感じる視点はそれぞれだけど、ぼくも彼らと同年代だし勝手に親近感がわいているのでこんなヤバいやつがいるんだよということをもっとみんなに知ってほしい。