なにそれ経営者のブログ

仕事と彼女と人生観

逃げること

「『もっとも賢明な恋愛のしかたは、女から逃げることだ。』といったのはナポレオンだそうですが、ゲーテもまた、激しい情熱にたえがたくなり、このまま関係をつづけていれば自分のためにも恋人のためにもならないとみてとると、きわどいとこでのがれ、あやうく破滅の淵から浮かびあがるという、まさに忍者の術のような手を用いるのが得意であったようです。それは、冷酷に恋人を棄てる浮気男のやり方とは、似ているようで違います。恋人とともにわが身を滅ぼしてしまうほどの無分別にはなり切れなかったので、やむなく恋人がいる土地から『逃げ出す』ほかには、解決の道がなかったのです。つまり、それぐらい情の深い男であったわけで、そういう激しい体験から、あの輝かしい恋愛文学を、つぎつぎと生み出していったわけなのです。」(*)
あの三島由紀夫が激賞したという名著「快楽主義の哲学」の一説。この本はとくに第四章の「性的快楽の研究」が好きだけど、これは過去の賢人たちについて書かれた第五章の「快楽主義の巨人たち」。いちいちわかりやすく納得させられる。自分の経験と巨人をシンクロさせるのはナンセンスだけど、情が深いからこそやむなく逃げ出すという構図が(正当化しているだけかもしれないけど)刺さる。
ひとりの女性でコップがすべて満たされないことはわかっている。ところがコップに入っている量がゼロでも満たされない。だから女性を追いかけてしまう。そして満たされそうになったらまたコップを自らひっくり返してしまう。というようなことをここ数年繰り返していて。破滅するかもしれないというところまで追い詰められているわけのではないけど、やっぱりひとりの女性へのフルベットから「逃げて」いる。ナポレオンのような巨人がポジティブに逃げることだと言い切っていることにほっとしてしまった自分がいる。


* 澁澤龍彦「快楽主義の哲学」